[同世代ウイングバック対談]杉岡大暉 石原広教 心を燃やして

湘南ベルマーレ 杉岡大暉 石原広教
◎表紙 鈴木章斗 ◎対談 池田昌生✕鈴木章斗 鈴木雄斗✕キムミンテ 平岡大陽✕福田翔生 ◎湘南名鑑 ◎ホームゲーム戦記
プロフィール

杉岡大暉 Sugioka Daiki #2 DF 1998年9月8日生まれ、東京都足立区出身。サッカー歴:レジスタFC→FC東京U-15深川→船橋市立船橋高校→湘南ベルマーレ→鹿島アントラーズ→湘南ベルマーレ

石原広教 Ishihara Hirokazu #3 DF 1999年2月26日生まれ、神奈川県藤沢市出身。サッカー歴:藤沢FC→湘南ベルマーレジュニア→湘南ベルマーレU-15平塚→湘南ベルマーレユース→湘南ベルマーレ→アビスパ福岡→湘南ベルマーレ ※2016年 2種登録(湘南ベルマーレ)

取材・文=隈元大吾 Text by Kumamoto Daigo
写真=兼子愼一郎、大西 徹 Photography by Kaneko Shin-ichiro, Onishi Toru
取材日=2023年8月8日

目次

「ヒロといる時間が一番長かったかも」(杉岡)

湘南ベルマーレ 杉岡大暉

――ベルマーレ加入当時の話をあらためて聞かせてください。2人が最初に顔を合わせたのはいつですか?

杉岡 僕が市立船橋高校3年生のときに、練習試合で馬入に来たことがあったんですよ。ユースとだっけ?

石原 違う、俺らとじゃないよ。どこか他のチームと。

杉岡 そうだ、青森山田だ。

石原 そうそう、山田と。確か高校選手権の前じゃない?

杉岡 そう、選手権前に馬入の天然芝で練習試合をしたんですよ。

石原 市船と山田が。

杉岡 確かその帰り際ぐらいに……。

石原 俺がトップの練習に行ってて、体育館の前で擦れ違って、「お、ういっす」みたいな(笑)。

杉岡 加入が決まっていたからね(笑)。

石原 お願いしますって(笑)。練習には俺がトップに行ってないときに来てたよね。

杉岡 未月(齊藤未月、現神戸)はいた?

石原 未月はいたんじゃない。あいつずっとトップに行ってたもん。俺は大暉と一緒に練習はしてなかったから、そのときが初めてだね。

――加入当時のお互いの印象を教えてください。

石原 最初はJリーグの新人研修じゃない?

杉岡 わりと3人でいましたよ、未月と広教と。

石原 ずっとね。俺はよく大暉の家で漫画を読んでいた。

杉岡 ああ、そうだ(笑)。

石原 練習が終わってから大暉の家に行って、そのまま一緒にごはんを食べに行って。最初の頃はずっとそういう感じだったよね。

杉岡 うん。金子(大毅、現京都)も入ってきて、4人同期がいたけど、ヒロといる時間が一番長かったかも。

石原 俺もたぶん大暉の家にずっといたかも。

――キャラクターの印象はどうですか?

杉岡 キャラクター……ヒロはまあ、生意気ですよね。

石原 ハハハ。

杉岡 良くも悪くも(笑)。でも広教と未月が年上の選手に対してガツガツ行く感じだから俺もなじみやすかった。先輩もいい人たちだったからすごく楽しかったですね。

石原 大暉はずっとアキくん(秋野央樹、現長崎)といたからね。ずっと一緒にいて、ほぼアキくんのまねしてたから(笑)。

杉岡 ハハハ。

石原 服とか。

杉岡 してたわー。

石原 すべて。車もじゃない? アキくんと同じ車の色違いにして、服もアキくんに連れて行ってもらって。

杉岡 うん、一緒の服を買って。

――なぜ秋野選手とそんなに仲良かったのですか?

杉岡 アキくんとロッカーが隣だったんですよ。たぶんそれがきっかけじゃないですかね。アキくん、面倒見がいいから。

石原 うん、アキくん俺らの誰かしらといたもんね。

杉岡 うん、いたいた。

石原 未月もそうだし、俺もちょいちょい一緒にごはんに行ってたし。大暉はずっと一緒にいて面倒見てもらってた(笑)。

杉岡 いたね(笑)。

「迷いなくやれている感じが、大暉の本来あるべき姿」(石原)

湘南ベルマーレ 石原広教

――当時のプレーヤーとしての印象もそれぞれ聞かせてください。

杉岡 ヒロは対人が強いイメージが強かったですね。しっかり守備ができる選手だなと思っていました。

石原 大暉は初めからずっと試合に出て、点も取っていたしね。同じ左サイドで一緒に出ることもあったけど、大暉をどう見ていたというより、俺はシンプルに、同世代に負けないようにという気持ちだった。だから練習でマッチアップしたときも負けないようにと思っていたし、追い付かないと、っていう感じでした。

――杉岡選手は最近再びウイングバックでプレーしています。同じポジションの石原選手から見てどうですか?

石原 いやあ、いいですよ。左サイドが生きています。迷いなくやれている感じが、大暉の本来あるべき姿だと思う。前を向いてドリブルでゴリゴリ行くのは、みんなが見たかったプレーだと思うし。そっちのほうがやりやすいでしょ。

杉岡 うん。楽しいよ。やっぱり自分は攻めたいんだなと思ったし、ウイングバックをやって、また一つレベルが上がったと思うし。正直、後ろ(センターバック)でプレーすることのプレッシャーから解放されたところもあると思う。

石原 全然違うもんね。

杉岡 うん。後ろはボールを持っているにしろ持っていないにしろ、守備にしても基本リアクションだけど、ウイングバックは全部自分からアクションできるから、ほんとに楽しいです。

――それぐらいセンターバックのプレッシャーは大きい。

杉岡 大きいですね。

石原 やっぱり(自分のミスが)結果に直結してしまうのは大きいよね。

――逆に、杉岡選手から見た石原選手のプレーはどうですか?

杉岡 すごいと思いますよ。守備はもちろん、攻撃でも違いを出せる。Jリーグの中でも上のレベルのウイングバックだと思っていますし、すごいなあって去年からずっと思っていました。広教を見ていると、生意気なぐらい強気でプレーしている。それは後ろでもそうでしたけど、前になってリスクが少なくなった分さらに、そんなこともできるのか、ああやればできるんだ、みたいな(参考になる)プレーもあって。メンタルって大事だなって、つくづく思いますね。

――石原選手は、何か杉岡選手の変化を感じるところはありますか?

石原 変化……良さは変わってないし、プレー自体はべつに変わってない。

杉岡 マジ?

石原 え、変わった?

杉岡 けっこう変わった感覚ではいるよ。

石原 いや、周りを見るとかそういうのは置いといて、プレーとしての(根本の)話だよ。

杉岡 ああ、なるほど。

石原 成長するのは当たり前だから、そこは置いといて、大暉のいいところは変わってない。それにプラスして、余裕ができて、周りを見て、人を動かして、自分が起点になって、というところはものすごく精度が上がっている。

「考えちゃダメ、ストライカーじゃない人は」(杉岡)

――逆に、お互い直してほしいところはありますか?

石原 あるある。大暉は自分に矢印を向けすぎ(笑)。

杉岡 ハハハ。

石原 みんなで試合を振り返るときも、「俺のせいで」「俺ができなかったから」って、全部自分のことを話す。そういうのは聞いてない(笑)。

杉岡 そうだね(笑)。

石原 自分が情けない、みたいな。でも昔からそうだよね。

杉岡 うん、まあね。最近はもうセーブできています(笑)。

石原 そうだね。

――石原選手についてはどうですか?

杉岡 うーん、点を取ってほしいですね。

石原 そうっすね(笑)。

杉岡 アシストはしてくれてますけど、点を取ったことがないのはあんまりよくないと僕は思っていて。やっぱりウイングバックは点を取れなきゃいけないと思うので。そこは広教の唯一の不満ですね(笑)。

石原 ハハハ。それはもう、誰もが言うところだよね。

杉岡 1点でいいから取らないと。ゼロと1ってすごく違うから。

石原 ね。なんでだと思う? 試合でも練習でもチャンスは来てるじゃん。

杉岡 いや、べつに俺もたまたま取れているだけだから(笑)。

石原 考えてないでしょ。

杉岡 そう、考えてない。点を取ってるときは何も考えずにシュートを打ってるから。

石原 そうそう、それなんだよ。俺ゴール前に行くと考えすぎちゃう。

杉岡 考えちゃダメ、ストライカーじゃない人は。

石原 それはたぶんクラブのせいです。だって俺、ジュニアの頃はGKだもん。幼少期大事でしょ(笑)。

杉岡 ハハハ。

――でも考えてみると、石原選手のチャンスって、ほんとに文字どおりの決定機なんですよね。

石原 そう、マジで決定機。

杉岡 逆にね(笑)。

石原 逆に(笑)。決定機すぎて、絶対決められるだろ、いや決めろよ、みたいな。

杉岡 確かに(笑)。

石原 でもチャンスは今までより間違いなく増えている。

杉岡 うん、増えてる増えてる。

石原 2017、18年なんて、あんなところ(ゴール前)にほぼ行ってないよね。

杉岡 確かに。

石原 シュートなんてほぼ打ったことなかったから。あと少し。今年中にはマジで「1」を。

杉岡 1を早めに取らないとね。

「敵陣でサッカーしている感覚はすごくあった」(石原)

湘南ベルマーレ 石原広教

――今シーズンここまでを振り返って、印象に残っている試合を教えてください。

杉岡 うーん……。やっぱり開幕戦かな。

石原 そうだね。川崎戦(第3節 1-1)やFC東京戦(第7節 2-2)も良いイメージはあります。勝ち切れなかったけど、90分を通して勝ちゲームだった。逆に言えば、そこで勝てなかったことがたぶん今年の肝だと思う。

――理由は分かりますか?

杉岡 難しいですね。大量失点したとき、それなりに理由はあったんですけど、序盤戦は細かいところの綻びで失点してしまったり、ピンチをたくさんつくられていたわけではないのに、ちょっとしたワンチャンスで決められたりして、勝ち切れなかった。

――粘り強さがなかった?

杉岡 いや、なくはなかったよね。

石原 うん。ただ、失点の仕方はあっさりしていた。

杉岡 そう、なんかあっさり……。

石原 けどそれ以外では体を張ってないわけではないし。なぜか入ってしまった、みたいな。難しかったよね。

杉岡 難しかった。

――確かに組織的な守備はできていました。

杉岡 うん、機能していた。

石原 特に序盤戦は、前から行って自分たちでボールを奪い、素早くゴールに向かうことはできていたよね。

杉岡 うん、ほんとに。

石原 敵陣でサッカーしている感覚はすごくあった。逆に自陣での守備にはあまり目を向けていなかったから、そこでの軽さはあったのかもしれない。

杉岡 良くも悪くも、失点していなかったらそこまで問題は発生してなかった気はする。

――柏戦(第11節 1-2)の後に選手だけでミーティングをおこなったと聞きました。

杉岡 今年はけっこうやっていますね。

石原 うん。札幌に大敗したときもそうだし(第13節 2-4)、ほぼ毎試合やっているからね。

杉岡 最初はたぶん福岡(第5節 1-2)じゃないかな。それまでは、内容的にはしっかり勝ち試合だったと思う。でも福岡にああいう負け方(後半アディショナルタイムに2失点)をしてしまった。ただ、福岡戦も内容は良かったんですよね。

――どのあたりから歯車が狂い始めたのでしょう。たとえば神戸戦(第10節 0-2)は、負けたけど内容はそこまで悪くないと思っていたのですが。

石原 (最初の失点は)フリーキックだよね?

杉岡 そう。うーん、微妙ですね。

石原 良くはなかったよね。全然パッとはしてなかった。

杉岡 そう。ただ、その前に上位のマリノスと名古屋に引き分けて(第8節 1-1、第9節 2-2)、悪くないんじゃないかとも思えてしまうところはあったかもしれない。

石原 でも、いいときみたいに前で奪う場面は少なかったと思う。たぶんプレー位置が低くなってきていたのかな。開幕戦は、自分たちがボールを持っているというより相手がボールを持っていて、前からプレスをかけて高い位置で奪ってショートカウンターという形が刺さって、結果的にそれで点を取れたけど、徐々に放り込まれ始めて……。

杉岡 うん。

石原 長いボールを蹴られるようになってからは、徐々にそれができなくなっていったと思う。智さん(山口監督)には前から行くように言われているけど、蹴られるから選手の中で迷いが出てギャップが生まれてしまったところはあるかな。それが京都戦(第4節 0-2)だった。

杉岡 京都戦は良くなかったね。

石原 しかも自分たちで後ろから動かそうとして突っかける場面も多かった。そこからしばらく蹴ってくる相手が続いた記憶がある。

杉岡 うん。

――京都の後が福岡でしたね。

石原 そうですね。蹴られるようになってからそのイメージがある。

杉岡 蹴られて持たされるみたいな。

石原 そうそう、それが続いたんだよね。蹴られてラインが下がり続けていたんだと思う。FWは行くけど後ろは下がっているみたいな。

「自分たちからアクションできるから」(杉岡)

――そうした課題は中断期間を経てクリアされましたか?

杉岡 そうですね。キャンプの空気感も良かったし、整理できて、結果も出せた。広島戦(第22節 1-0)は最後危なかったですけど、どこかで乗り越えなければいけないと思っていたので、失点ゼロに抑えて勝てたことは大きいと思っています。

石原 最後ああやって決定機をつくられても、体を張って、体を投げ出して戦うのが湘南だと思うから、広島戦のように本来の泥くささをバンバン出していけばいいのかなと思います。(見ていて)さすがに最後はハラハラしましたけど。

杉岡 あの(加藤陸次樹選手の)ヘディングシュートはね。でも一つ目(の壁)を越えないと。

石原 うん。やっぱりセレッソに勝ったことは大きかったよ(天皇杯ラウンド16 1-1 PK5-4)。

杉岡 そうだね。

石原 PKでもなんでも勝ってよかった。総力戦みたいな、あの試合に勝ったことが、広島戦の勝利にもつながったと思う。

――ところで、ベルマーレはセットプレーの守備の際、マンツーマンを長年採用してきました。山口監督のもとではゾーンを取り入れ、今シーズンの途中からはコーナーキックもゾーンで守るようになりましたが、以前との違いも含めて感触を聞かせてください。

杉岡 僕はセットプレーでマークに付くことが多かったですけど、ゾーンはポジティブですね。マンツーマンは一人の責任がすごく重いから。

石原 新潟戦(第16節 2-2)?

杉岡 そう。新潟戦はまだマンツーで、俺がマークしていた選手に直でやられた。

石原 それからゾーンになったんだよね。

――翌節の鹿島戦からですね。

石原 そうですよね。でもゾーンのほうが断然やりやすいです。マンツーマンは嫌だ。

杉岡 うん、自分たちからアクションできるから。

石原 前向きに行けるもんね。

杉岡 そう、前向きに。やっぱりマンツーは……。

石原 リアクションになるのがちょっとね。

杉岡 怖いね、ほんとに。

石原 しかもマンツーは意外と譲ったりするけど、ゾーンは役割がハッキリしているから見合ったりしないし、ラインもコントロールしやすい。ハッキリしているからゾーンのほうがいいよね。

「離脱してからずっと考えていた」(石原)

――シーズンも終盤に差し掛かってきました。ここからの反撃に向けて大切にすべきことを聞かせてください。

杉岡 中断期間中にキャンプでやったことをどれだけできるか、それに尽きると思います。何があってもそこのベースは崩さずに1試合1試合戦えば大丈夫だと思う。

石原 迷いなく自信を持ってやれていれば問題なく勝てると思うし、みんながその気持ちになれればどうってことないと思うので、上を目指し続けることと、練習から勝負にこだわってやることが大事。もっと味方同士でもやり合って、闘争心を持って、心を燃やして練習からやれば、試合ではさらに集中力が上がると思う。そういうことを自分から発信していこうかなと、ケガで離脱してからずっと考えていた。前半戦はちょっとおとなしすぎたかなと、いい子にしすぎたかなと思って(笑)。一人ぐらいそういうのがいたほうがいいと思うので、ここからちょっと暴れていこうかなと思っています(笑)。

――仲間にもっと厳しく求めていく。

石原 そう、周りに刺激を与える暴れ役がいたほうがいいのかなって。そうやって強く言う人はチームにあまりいないから、誰かが止めるぐらい行ってもいいかなって、もちろん空気を乱さない程度にね。そこは何も役割のない俺がやって、あとは大暉(副キャプテン)とガンちゃん(大岩一貴キャプテン)や年上の人たちにまとめてもらって。

杉岡 思うようにやってください(笑)。

石原 ハハハ。いや、練習からけんかするぐらい燃えたほうが試合でもっと燃えるんじゃないかなって。大暉も神戸戦で武藤(嘉紀)選手とやり合ったとき燃えてたじゃん。

杉岡 ああ、まあそうだね。

石原 あの後、大暉スイッチ入って、めっちゃ良かったよ。雰囲気出てたもん。全然負けてなかった。イカつくなってた、顔が(笑)。

杉岡 ハハハハハ。

石原 ああいうのをみんながやったら超怖いチームになるし、相手からしたらすごく嫌でしょ。それを練習からやって当たり前になるといい。たぶん強いチームはそうだから、それをやってチームを変えていこうかなって。

――その点、鹿島はどうでしたか?

杉岡 練習から削るし、バチバチしてますよ。僕がいたときはけんかは起きなかったですけど、それ以前はけっこう起きてたみたいですね。

石原 今もバチバチらしいよ。でもその後は普通に戻って平気みたいな感じでしょ。

杉岡 うん、そうだね。

石原 うちも(キム)ミンテさんは厳しく言うし、(小野瀬)康介くんとか阿部(浩之)くんとか、そういう(強い)チームでやっていた人はやっぱりそうだから、それは大事かなって最近すごく感じている。闘争心って、いちばん無心になれるから、それこそ対面の相手に負けられないという気持ちになるし、試合中はむしろけんかするぐらい燃えているほうがたぶんいい。それがサッカーしているときの当たり前になれば、プレーはきっと良くなるし、うちがもともと強い球際ももっと強くなるだろうし、それをやっていきたいなって。

杉岡 確かにそうだね。

石原 年上の選手は考えも持っているだろうから、俺らぐらいや若手はそういうのをやっていったほうがいいと思う。


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